「組織開発」という言葉に出会った2014年。
そこからさまざまな組織開発のファシリテーターと会話する中で、「Tグループ」というものが何度も話題にあがりました。
「非構成の場であるTグループは、いつか行くといいよ」と信頼している方からの後押しもあり、2015年にJIEL(一般社団法人 日本体験学習研究所:2023年3月31日に閉所されました)のTグループに参加、2016年には同じくJIELでTグループ・ファシリテータートレーニングに参加しました。この記事では、それらに参加した概要と気づきを記載します。
※Tグループの各種情報に踏み込んで記載しています。もし「事前情報をできるだけ入れない状態でTグループに参加したい」という方はこれ以上記事を読まないことをお勧めします。ちなみに私も事前情報をできるだけ入れずに、Tグループに参加しました。
Tグループへの参加
私は2015年12月17日~22日までの4泊5日、清里の清泉寮という場で実施した会に参加しました。参加者は15名、オブザーバー2名、トレーナー4名、看護師で事務局をしてくださった1名の合計22名です。会場についたら清泉寮の絵が描かれたWelcome Boardがありました。
そもそもTグループとは
「Tグループ」とは「トレーニンググループ」の略で、自己理解や他者理解、リーダーシップといった人間関係に関する気付きを得るための学習方法です。心理学者のクルト・レヴィンらが1946年に米国コネチカット州で、教育関係者やソーシャルワーカーなどを集めて、人種間の差別撤廃に向けたワークショップを行ったことが起源とされています(日本の人事部より引用)。南山大学のこちらのPDFにもTグループの詳しい内容が記載されています。
会場につくと、バインダーがもらえました。そこには後から徐々に配布されるさまざまな資料を入れ込んでいくことができます。そこにTグループやその場で使われる言葉についての解説がありました。
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TグループとはTグループとは、トレーニング・グループの略称です。
Tグループでは、あらかじめ決まった話題や手続きはありません。
今、ここに起こっていること(プロセス)を学習の素材にします。
全体会とは
参加者が全員集まり、Tグループとはちがった状況での体験をしたり、体験していることを一般化するセッションです。
夜のつどいとは
ともにつどい、その日一日を静かにふりかえるひとときです。
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ここで書かれていることは、参加前だと「ふーん」ぐらいで流し読みをしたのですが、実際にやった後だと「…たしかに…!」と思う、不思議な感触がありました。
またTグループのねらいはこのように記載されています。
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ねらい
今ここをともに生きる
自分、他者、グループのありようー今ここで起こっていることーを実感し、学ぶ
・自分が他者や場に与える影響、受ける影響を体験から学ぶ
・自分、他者、グループのもち味に気づく
・
・
・
自分らしい学びを探求する
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これもまた、Tグループが終わったあとにものすごくこのねらいが自分に沁み込んでくるのですが、これもまた参加する前はなかなかピンとこない…。このあたりが「非構成の場」や「Tグループ」の醍醐味でもあり、難しさでもあるのかもしれません。
Tグループのスケジュールと概要
スケジュール
Tグループでは、T1、T2といった「Tセッション」と呼ばれる75分間のセッションがあります。何回Tセッションをするかは、その時のTグループ次第(このあたりも非構成といわれるゆえんかもしれませんが、「かっちり決まったスケジュールをこなす」のではなく、場と参加者を見てTセッションを何回やるかが決まります)ですが、私たちは14回実施しました。
それ以外に先に述べた全体会が適宜、夜のつどいは毎晩あります。
以下の全日程表は一番最後に配られました(一応これとは別に毎日のスケジュールも毎朝配れていました)。これは今後の予定をたてるものではなく、今までの自分たちの歩みを振り返るための全日程表だと理解しています。
Tセッションの参加者構成
参加者15名は2グループにわかれ(8名、7名)、それぞれにTセッションが開かれます。
Tセッション時は別々の部屋で開催されるため、別グループのTセッションがどのように進行されているかはわかりません。各グループに2名のトレーナーがつき、そのトレーナーがすべてのTセッションに入ります(トレーナーの交代などはなし)。オブザーバーは過去にTグループに参加した方で、主にトレーナートレーニングに参加した方が入ります。
Tセッションの始め方と終わり方
Tセッションを実施するお部屋には、フルーツバスケットのように円状に置かれた椅子が参加者およびトレーナー分あります。どこに座っても構いません。オブザーバーは同じ部屋にいますが、フルーツバスケット内には入らず、机と椅子が別に配置されています。
最初のTセッションでは、「何をしてもいいし、何もしなくてもいい」といった内容が語られ、始まります。75分ごろになると、毎回振り返りのシートがトレーナーから配られます。オブザーバーはこの75分間の逐語録的なものをメモしており、その概要をグループにフィードバックします。各人は振り返りシートを記入します。そのシートをトレーナーが回収する(実際には書きおわった人から所定の場所に置き、Tグループのお部屋を出る)ことで、Tセッションはクローズします。
Tセッションの振り返り
毎回Tセッションの最後に配られる振り返り用紙には以下のような内容が書かれています。
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1.今のセッションでの私を何かにたとえると
2.今のセッションの印象、主な流れ、出来事は
3.今のグループの中で私は
1)不安でたまらない← 7段階評価 →安心していられる
2)自分の意見を感情を隠さずに言うことが多い← 7段階評価 →自分の意見や感情を隠して言わないことがある
3)グループが今取り組んでいることに関心がない← 7段階評価 →グループが今取り組んでいることに関心がある
4)お互いに頼り頼られていると感じている← 7段階評価 →誰かに頼っていたい気持ちのみが強い
5)自分の感情や行動が大切にされていると感じる← 7段階評価 →自分の感情や行動が無視されることが多い
6)何か言うときに曖昧にぼかして言うことが多い← 7段階評価 →何か言うときに曖昧にぼかさないで言うことが多い
7)グループに参加している実感が強い← 7段階評価 →グループに参加している実感が弱い
8)特定の人の影響のみが強いと感じている← 7段階評価 →お互いに影響し合っている実感がある
9)グループにまったく魅力を感じない← 7段階評価 →グループに非常に魅力を感じる
4.今のセッションで私に影響を与えたのは(肯定的でも、否定的でも)
誰の:どのような言動が:どのような影響を
5.今のセッションでグループに影響を与えたのは(肯定的でも、否定的でも)
誰の:どのような言動が:どのような影響を
6.今のこのグループの中で気になる人、気になることは(肯定的でも、否定的でも、自分との関係を含めて、具体的に)
7.このセッションを通して私が感じたこと、気づいたこと、その他、自由に
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この紙は、トレーナーがコピーを取ったあと、一人ひとりの手元に帰ってきます。
また、ここのTセッションでの会話は録音されており、Tグループを実施している間、同じグループのメンバーであれば何度も聞くことができます。
自分の振る舞いはどうだったのか、場に誰がどのように影響していたか。
クールダウンしてそれらを理解するために、私も何度か音声を聞きました。
Tセッション以外の時間
Tセッション以外では、全体会と夜のつどいがあります。
全大会ではさまざまなアクティビティを行いますが、印象的だったのは「私・グループの表現」というものでした。ここでは、「今までのグループをふりかえり、外に出て自分を表すものを見つけてくる」ことをします。それらを元に振り返りをしつつ、手を動かしながらグループを表現していきます。ちなみに私たちが表現したものはこんな感じ。
夜のつどいでは、歌を歌ったり、詩を朗読したり、身体表現によるアクティビティを行います。
どちらも、内容的にはArt of Hostingのメタハーベストに近いような印象です。
Tグループに参加したことによる気づき
最後には、今までの振り返り用紙についてグループ全体の情報をサマリしたものが配布されます。グループの懸念と魅力の変化が可視化されます。
こうしたグループの状態を可視化することも重要ではありますが、私としては私自身が自分をかなり強く見つめなおすきっかけになったことが非常に大きな気づきでした。
元から、鈍感というよりは感受性が高い方だと思いますが、さらに感度が高くなり、ちょっとしたことで感動して涙が出るようになりました(年齢のせいなだけだったらどうしようw)。
また、仕事でのいくつかの葛藤を抱えていたのですが、このTセッションでは仕事の葛藤の話は何もしてないにもかかわらず、その葛藤がなくなりました。
Tグループは、まさに「自分、他者、グループのありようー今ここで起こっていることーを実感し、学ぶ」ことを通し、「自分、他者、グループのもち味に気づく」場です。自分自身のもち味に気づき、今この場にはいない誰かのもち味にも気づき、そうすることで自分の探求がすすみ、葛藤を解消する手立てを得ることができた、そのような体験でした。
Tグループ・ファシリテータートレーニングへの参加
もう少し学びを深めたいと思い、Tグループに参加した翌年、Tグループのファシリテータートレーニングに参加しました。
Tグループ・ファシリテータートレーニングのスケジュールと概要
今回もバインダーが配られます。
スタッフから以下の「ねらい」自体はいただきますが、それだけでは終わりません。
最初に全体会では「ねらいづくり」からスタートしました。
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スタッフから配られた「ねらい」
ひとりひとりを尊重し、プロセスから学び、信頼関係を深める。
”今ここ”出のプロセスに働きかけるファシリテーションのあり方を、体験を通して学ぶ。
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自分なりにこの場にどう参加したいのか。何を持ち帰りたいのか。
そうしたことを考え、自分および自分たちなりに「ねらい」を作ります。
スケジュール
今回もスケジュールは最後に配布されました。(そして今回も毎朝1日毎にスケジュールをもらいました)
普通のTセッションとの大きな違いは
①Tのセッション(この場ではTTS:トレーナートレーニングセッションと呼ばれていました)が50分と短いこと(通常のTセッションは75分)
②代わりに、振り返り用紙記入とフィードバックタイムがあること(両方合わせて90分)
③トレーナーとオブザーバーは参加者が交代で実施すること
④随時レクチャータイムがあること(ラボラトリー体験学習の誕生、Tグループ誕生のキーパーソンK・レヴィンの人間観、Reddyの働きかけの立方体、Tグループとベーシック・エンカウンターグループ、グループの発達モデル~ギブの懸念モデル~、診断型ODと対話型ODの動きからみたTグループ、など)
といった点です。
TTSの参加者構成
私が参加した時は、参加者が15名、スタッフが4名でした。参加者もスタッフも2グループにわかれ、それぞれにTTSが開かれます。参加者のうち、1人がオブザーバー、2人がトレーナー、他の人が通常のメンバーとなり、役割を回しながらTTSを実施していきます。
TTSの振り返り
トレーナー用とメンバー用で振り返り用紙が異なります。
メンバーの場合は主に自分とトレーナーの振り返り、トレーナーの場合は自分自身の働きかけについて記載します。
トレーナー役をやったときは、この時にどのようなことを記載されているのかとても気になります(笑)。でもそこでの気づきや、フィードバックが自分のグループプロセスでの介入に学びをもたらしてくれるなと感じています。
以下の画像は、全体会で一人ひとりの気づきや学びを言語化し、自分がトレーナーとしてどういった問いかけ、場への働きかけをしたいか表出したもの。
Tグループ・ファシリテータートレーニングに参加したことによる気づき
トレーナー役、オブザーブ役、さらにそこにレクチャーも入り、正直余裕がありませんでした。ただ、非常に学びは多かった会でした。自分の思考の癖やグループプロセスへの介入の仕方についても振り返る機会になりました。
組織の中で、または外部の組織に入り込んでファシリテーターを実施していく人にとってはとても有意義なトレーニングだと思います。
おわりに
Tグループは「一回でさっとスキルが身につく何か」といったものではないのですが、10年に一回は戻ってきたい場だなと感じました。
グループプロセスに関わり続けるのであれば、そしてそこに何かしら介入する可能性のある仕事をするのであれば、自分の状態のメンテナンスも含めてまたDeep Diveしに参加したいと思っています。
この記事が、「組織開発に関心がある」、「Tグループに参加してみたい」と思われた方に参考になれば幸いです。
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